後遺障害(後遺症)による損害

後遺障害慰謝料

後遺障害が残ったことによる精神的な苦痛に対する賠償です。
傷害慰謝料とはまた別に算定します。

傷害慰謝料と同じく後遺障害慰謝料も、裁判上の基準、任意保険の基準、自賠責保険の基準と、大きく3通りの基準があります。
同じ事故の同じ人に対する慰謝料に、物差しがいくつもあることが、ややこしく、おかしな話なのですが、実際そのようになっており、細かく分けるともっとたくさんの基準が存在しますが、各基準ともある程度、定額化されています。

自賠責保険基準では、介護を要する後遺障害の場合は被扶養者がいるかどうかを加味しますが、認定された後遺障害等級により金額がきっちり決まっており、のように規定されています。

任意保険の基準は、損保会社各社で若干の違いはあります。
自賠責基準と裁判所基準の間に位置しますが、自賠責基準よりになっています。

裁判所の基準も、後遺障害等級によりほぼ定型化されてしまっています。
日弁連交通事故相談センター発行の「交通事故損害賠償算定基準(通称 青本)」や同センター東京支部発行の「民事交通事故訴訟損害賠償算定基準(通称 赤い本)」などに、基準が掲載されていますが、概ねその基準あたりになります。
しかし、定型化されているといっても、自賠責保険と違い、認定された等級の金額がすんなりそのまま認定される場合もあれば、そうでない場合もあります。
交通事故紛争処理センターでは、この裁判所の基準により判断されます。

近親者の慰謝料

死亡するのと同等程度の精神的苦痛を受けた場合などは、本人分の慰謝料の他に近親者の慰謝料も請求可能となってきます。
裁判例を見ると本人分の2割程度という傾向は見られますが、被害者との関係や、請求権者が何人いるかなどにも左右され、基準的なものがありません。
本人分に近親者慰謝料が含まれているという場合もあります。

自賠責保険では、後遺障害で近親者慰謝料の概念はありませんが、1級と2級の場合は介護を要するかどうかで、慰謝料額と保険金額が大きく違ってきます。

後遺障害逸失利

事故により後遺障害が残ったことによる将来の収入の減少もしくは喪失に対する賠償です。
労働能力の低下の程度、収入の変化、将来の昇進・転職・失業等の不利益の可能性、日常生活上の不便等を考慮して行うとされています。

逸失利益の算定には、事故受傷前後の収入の差額を損害とする考え方(差額説)と、後遺障害によって失われた労働能力それ自体をもって損害とする考え方(労働能力喪失説)と大きくふたつの考えかたがあります。
差学説は実際の減収を損害とする考え方ですが、長期間にわたる減収状態の正確な認定は不可能に近いため、実務では大勢が労働能力喪失説的な算出方法を採用しています。
しかし、全く減収が認められない場合、または労働能力の減少が無いと判断される場合は、逸失利益が認められないこともあります。

逸失利益の算定は、交通事故賠償において非常に高いウエイトを占める重要な損害費目であり、同程度の障害でも損害賠償上、個々人により大きな差が出てきます。

自賠責保険の支払基準では、例え収入が多くても保険金額といった上限があり、また、収入が少なくかつ後遺障害14級9号などの比較的経度の神経症状であっても、平均給与額で就労可能年数一杯まで算定されるため、開きもそれ程大きくなりませんが、民事での損害賠償では、若年者であったり、高所得者であったりすると、逸失利益の影響で総賠償額が億単位になることもめずらしくありません。

後遺障害逸失利益の算定方法は以下の通りです。

逸失利益

基礎収入額(事故前の年収)
×
労働能力喪失率
×
労働能力喪失期間に対応するライプニッツ係数

それぞれの用語について解説します。

基礎収入

原則として事故前の現実収入を基礎としますが、将来、現実収入額以上の収入を得られる立証があれば、その金額が基礎収入となります。
そして、現実収入が平均賃金(厚生労働省が毎年発表しているもので、賃金センサスという統計があります。)を下回っていても、将来、平均賃金程度の収入を得られる蓋然性(かなり高い可能性のようなことです。)があれば、平均賃金を基礎収入とできることがあります。

主婦の場合も家事従事者として、逸失利益を請求でき、その基礎収入は、賃金センサスの女性労働者全年齢平均賃金を使うことができます。

自賠責保険では、以下のように規定されています。

(1)有職者
事故前1年間の収入額と後遺障害確定時の年齢に対応する年齢別平均給与額(賃金センサスの平均賃金より少し低くなります。)の年相当額のいずれか高い額。
ただし、次の者については、それぞれに掲げる額を収入額とする。
 1.35歳未満であって事故前1年間の収入額を立証することが可能な者。
  事故前1年間の収入額、全年齢平均給与額の年相当額及び年齢別平均給与額のいずれか高い額。
 2.事故前1年間の収入額を立証することが困難な者
  ア.35歳未満の者
    全年齢平均給与額の年相当額又は年齢別平均賃金の年相当額のいずれか高い額。
  イ.35歳以上の者
   年齢別平均給与額の年相当額
 3.退職後1年を経過していない失業者(定年退職者等を除く)以上の基準を準用する。
  この場合において、「事故前1年間の収入額」とあるのは、「退職前1年間の収入額と読み替えるものとする。

(2)幼児・児童・生徒・学生・家事従事者
全年齢平均給与額の年相当額とする。
ただし、58歳以上の者で年齢別平均給与額が全年齢平均給与額を下回る場合は、年齢別平均給与額の年相当額とする。

(3)その他働く意思と能力を有する者
年齢別平均給与額の年相当額とする。
ただし、全年齢平均給与額の年相当額を上限とする。

労働能力喪失率

後遺障害が残ったことにより、労働能力がどのくらい低下しているかを表します。
労働省労働基準局通達(昭和32.7.2基発第551号)別表労働能力喪失率表に、各等級における喪失率が定められています。
この労働能力喪失率表を参考とし、被害者の職業、年齢、性別、後遺症の部位、程度、事故前後の稼働状況等を総合的に判断して具体的にあてはめて評価することになります。
等級ごとの喪失率は表をご覧ください。

しかし実際、どのくらいの労働能力を喪失しているかの判断は困難であり、労働能力喪失率表を機械的にあてはめた判断となることが多いです。
しかし、この労働能力喪失率表の数値は、100%の喪失でない4級以下に関しては、労働基準法上の身体障害の各等級の補償日数を、10で割った数を、喪失率表の喪失率にあてはめているにすぎないもので、科学的な根拠等は無いようです。

自賠責保険の認定基準では、例外なく後遺障害等級における労働能力喪失率により算定されます。

労働能力喪失期間

文字通り労働能力が喪失するであろう期間のことで、基本的には、将来働くことができるはずの期間のことです。この労働能力喪失期間がいつからなのかというと、通常は症状固定日となります。
未就労者の場合は原則18歳ですが、大学卒業を前提とする場合は大学卒業時の年齢となります。
逆いつまでなのかというと、原則67歳です。67歳くらいまでは働くことができるだろうという考えです。
症状固定時から67歳までの年数が平均余命の2分の1より短くなる高齢者の場合は、原則として平均余命の2分の1の期間となります。

但し、労働能力喪失期間の終期は、職種、地位、健康状態、能力等によっても当然違いは出てくるものです。
67歳よりも、もしくは平均余命の2分の1の期間よりも先になるであろう蓋然性(ガイゼンセイ)を示すことができれば、原則とは異なった判断もあり得ます。

事案によっては、期間に応じて喪失率を段階的に減らしていく手法もあります。
症状固定日から10年間は20%、それ以降は10%といった具合です。これを逓減法(テイゲンホウ)といいますが、根拠のない逓減算定で損害提示される場合もありますので、そのような場合は、根拠をしっかりと示してもらうようにしてください。

また、むち打ち症の場合は、14級9号で5年以下、12級13号で5年から10年に制限される例が多く見られ、むち打ち症でなくとも、後遺障害が14級や12級の神経症状の場合は、やはり労働能力喪失期間は制限されています。
しかし、本来は型にはめることなく、後遺障害の具体的症状に応じて判断なされるべきことです。

労働能力喪失期間が制限されるということは、今ある後遺障害が何年後かには治っている若しくは働くことには影響が無くなっているということです。
後遺症に慣れるといった主張をされることもありますが、それは本人の努力によるものであり、他人には想像しがたい苦労があるはずです。

本来的には、後遺障害(後遺症)というものは、それが一生涯続くもののはずですので、何年か後には治っているとだろう若しくは働くことに影響無いだろうと判断されるケガが後遺障害として認定されるということ自体が矛盾するのですが、確かに後遺障害に認定されても、数年後には完治していることも14級9号の神経症状などでは、実際にある話です。
このような矛盾は、交通事故賠償の便宜上、生まれたように思います。
 
自賠責保険基準では、後遺障害の内容により労働能力喪失期間を制限されることはありません。
しかし、高齢者でなければ、共同不法行為によって2件以上の自賠責保険に請求できるような場合でない限り、保険金額の満額を超えてしまうため、余り意識することは無いかもしれません。

ライプニッツ係数

逸失利益とは将来発生する損害です。
長期間にわたり発生していく損害ですから、本来はただちに手に入らない金銭を手にすることになります。
これを使って利殖を行い、本来得られなかった利息を得られることになって不公平な結果となるといった理由で、中間利息を控除されます。

この中間利息を控除する方法は、複利(一定期間の利子も元金に加えて利息計算)で計算するライプニッツ式と単利(元金だけの利息計算)で計算するホフマン式 とがあります。
これを簡単に計算できるように年数に応じた係数をあらかじめ算出しておき、この係数を掛けて中間利息後の金額を簡単に算出するようにしています。このライプニッツ式の係数をライプニッツ係数といいます。
各年数に応じたライプニッツ係数は表をご覧ください。

以前は、裁判実務において、交通事故の逸失利益の算定における中間利息の控除方法は、ライプニッツ式を採用することも、ホフマン式を採用することもありましたが、平成11年当時ライプニッツ式を採用していた東京地裁と同様の方式を採用すると、大阪地裁と名古屋地裁が決定(三地方裁判所の共同提言 平成11年11月22日)し、現在では特段の事情が無い限り、裁判でも、交通事故紛争処理センターでも、保険実務でもライプニッツ式で算定しています。

そして、中間利息控除の利率は年5%とほぼ決まっています。
現在の市場の利率から考えると不合理ではあるのですが、そのような最高裁判決(平成17年6月14日)があり、現状この利率を下げた請求は、まず認められないでしょう。

将来の介護費(付添費)

重度の後遺障害者の将来における介護や付き添いに係る損害のことで、必要があれば被害者本人の損害として認められます。

職業介護(付添)の場合は実費全額、近親者介護(付添)の場合は、1日につき8000円~9000円程が、常時介護を必要とする場合の現在の基準となっています。
常時介護とは後遺障害等級でいうと、介護を要する後遺障害の1級にあたる場合で、介護を要する後遺障害の2級は、随時介護が必要であるとの認定です。
随時介護とは日常生活の全てにまで、介護は要さない場合をいいます。
随時介護の場合は、個々の介護の必要性の程度に応じて、常時介護の基準から減額されることになります。

介護・付き添いに要する期間は、被害者の平均余命までとするのが通例ですが、加害者側の期間を短くする主張との争いの多い部分です。この争いを解決する損害賠償方法として、定期金賠償という方法が、まだ割合的には少ないですが増えてきています。
一時金として損害賠償を受ける場合は、将来分の請求であることから、逸失利益の算定の場合と同様に、中間利息は控除することとなります。

なお、親族介護が行われている場合でも、被害者が若年の独身者の場合などは、親族による介護を平均余命まで期待できるわけではないので、介護にあたる親族の稼動可能期間までは親族介護の水準金額で、その後は職業的介護の水準で算定するというように、長期間に亘って発生する損害であることから、実態に沿って、期間ごとに基準額を変える例も多いです。

自賠責保険では、介護を要する後遺障害と認定されたとしても、将来の介護費が支払われることはありません。
しかし、初期費用という名目で、別表第1の1級に該当する場合は500万円、同じく2級に該当する場合は205万円が認定されます。
しかし、被害者がある程度高齢であるか、または共同不法行為により2件以上の自賠責保険に請求できるような場合で無い限り、後遺障害慰謝料と後遺障害逸失利益だけで、自賠責保険金額を超えてしまい、結局いくらに算定されようが保険金額しか出ないので、余り意味を持たないことも多いです。

将来の手術費・治療費・交通費・雑費等

原則としては認められませんが、症状固定後でも症状の内容、程度、治療の内容により、症状の悪化を防ぐなどの必要があれば認められることもあります。

将来の手術費等は、それが確実なことであれば認められることが多いです。
その場合、手術等の必要性と費用支出の確実性について医師の証明等で立証する必要はあります。

自賠責保険では、症状固定後の手術費等が認められることはありません。

家屋・自動車改造費、調度品購入費等

被害者の受傷の内容、後遺障害の程度・内容により、必要性があれば相当額が認められます。
家の風呂場・トイレ・出入口・自動車などの改造費や場合によっては購入費、ベッド・椅子などの調度品の購入費などです。

重度の後遺障害の場合はもとより、そこまでいたらない後遺障害の場合、あるいは後遺障害を残さない場合でも、社会通念に従って必要性、相当性が認められれば損害として認められます。

 

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